今更だけど『葬送のフリーレン』を全巻一気読みして、心底から打ちのめされている。この作品の何が凄いって、「時間」という概念の扱い方が他のファンタジー作品とは一線を画しているところだ。主人公であるエルフのフリーレンにとって、人間と過ごす数十年間はほんの瞬きのような時間。その圧倒的な寿命の差が生む「喪失感」と「追憶」の描き方が、あまりにも静かで、それでいて胸を締め付けるほどに美しい。
物語は魔王を倒した後の「後日譚」から始まるという構成がまず秀逸。普通なら英雄譚のゴールであるはずの場所から、彼女の本当の旅が始まっていく。かつて共に戦った勇者ヒンメルの死をきっかけに、彼女は「人を知るための旅」に出るわけだが、道中で出会う弟子や仲間たちとのやり取りの中に、過去の記憶が瑞々しくフラッシュバックしてくる演出が本当にずるい。
派手なバトルシーンの作画も、昨今のトレンドを押さえつつも、どこか絵画的な繊細さがあって見惚れてしまう。だが、それ以上に惹かれるのは、日常の何気ない会話の端々に込められた「命の尊さ」への視線だ。フリーレンが過去を振り返るたびに、読者である我々もまた、自分自身の「限られた時間」について考えさせられる。笑えるポイントもあるし、胸が熱くなる熱血展開もある。けれど、読み終わった後に残るのは、どこか遠い異国を旅したかのような、あるいは古い日記を読み終えたかのような、切なくも温かい「余韻」だけなんだ。間違いなく、現代の古典として後世まで語り継がれる傑作だと思う。