最初はただ、どん底のアル中刑事になって事件を解決するだけのハードボイルドな体験だと高を括っていた。酒に溺れて記憶を失い、汚職に手を染めかけた過去を背負いながら、場末の街マルティネーズを這い回る。そんなありふれた刑事ドラマだと思っていたんだ。だが、このゲームの真髄はそこにはない。プレイヤーの脳内に直接語りかけてくる「スキル」たちの声が、あまりにも人間臭すぎるのだ。
論理、共感、そして脳の奥底に潜む「古レプティリアン脳」や「電気化学」といった人格化した知覚たちが、一言一句、プレイヤーの判断を執拗に揺さぶってくる。「お前は共産主義者か?それとも超自由主義者か?」という政治的な問いかけだけじゃない。自分の人生そのものが、過去の失敗とトラウマの積み重ねで、現在の選択肢さえも自分自身の自己欺瞞によって塗り固められていることをまざまざと突きつけられるのだ。
文字を追い、選択肢を選び続けるたびに、自分という輪郭がひび割れていくような感覚に陥った。事件の真相を追っているはずが、いつの間にか自分という人間が「何者で、何を信じ、どうしてここに立っているのか」という究極の問いに直面させられる。ゲームを終えた今、現実世界の自分を鏡で見ると、そこに映っているのはかつての自分ではなく、幾千もの失敗を積み重ねてきた「刑事」の成れの果てのような気がしてならない。言葉という武器でここまで深く魂を傷つけ、そして癒やされる作品は他に存在しないだろう。まだ未プレイの奴は、覚悟して底なし沼に足を踏み入れてくれ。戻れなくなるぞ。