表紙や序盤の雰囲気だけで『メイドインアビス』を「可愛らしい絵柄のほのぼのファンタジー」だと判断している層は今すぐ改めたほうがいい。もしそう思っているなら、今すぐ地獄への切符を買うことになるからだ。奈落という未知のエリアを探索する冒険物語かと思いきや、物語が進むにつれて露呈するのは「人間の飽くなき探究心と、それに付随する残酷なまでの自己犠牲」というあまりに重いテーマだ。

本作の真骨頂は、読者の倫理観を徹底的に踏みにじる徹底的なリアリズムにある。上昇負荷という名の身体的代償、原生生物による蹂躙、そして何より恐ろしいのは、主人公たちの冒険を支える「愛」がしばしば最も過酷な呪いとして機能する構造だ。登場するキャラクターたちが、希望を抱けば抱くほど、その希望が悲劇を加速させる燃料へと変わる様は、もはや一つの美学の域に達している。

かわいいキャラクターが残酷な状況に追い込まれる「ギャップ萌え」なんていう甘っちょろい言葉で片付けてはいけない。これは作者が仕掛けた、読者の道徳心を試す巨大な罠だ。深淵に触れるということは、自らの人間性を一部切り売りすることと同義である。読み終えた後の、あの言葉にできない虚無感と、それでも続きを求めてしまうどうしようもない中毒性。この作品に出会ってしまった以上、もう二度と我々は以前のような平穏な気持ちでファンタジー作品を読めなくなるだろう。深淵はいつだって、こちら側を覗き返しているのだ。